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シネマ ファシスト 第83回 2009年1月号 『ノン子36歳(家事手伝い)』 鶴見辰吾には金持ちの善良な父親は似合わない。この映画と同じ日に公開された『魔法遣いに大切なこと』ではその合わない方の役であったが、しかしこの映画では、はまり役である。テーブルをたたく彼の指のわずか4音で、元おニャン子クラブの新田恵理を籠絡し、あまつさえ何百万円もの金を出させる。さすがと思う。坂井真紀との性へと流れる件においても、ビールの栓を抜いてから布団に流れるまで、とてもシナリオに書いてあるとは思えない演技である。いやらしい顔とはこういう顔を言うのであろう。 ノン子が36歳の焦燥と鬱積を日々抱えて生きているとは思えない。鬱屈と言っても、所詮夜の無人の商店街で自転車でゴミバケツや看板を蹴り倒すぐらいである。又、顔を見ると日々腹を立てている父と腫れ物に触るような母のバランスは、他に誰もいない実家で、子供の頃から使っている部屋とともに彼女にとって居心地はよさそうである。しかしその場に突然現れた元夫と若い男に一瞬心と体が揺れる。しかしこの若い男が、昔の松田優作なり、所詮無理な話だが変貌した鶴見辰吾ならば別の展開もあろうが、鶴見慎吾には一瞬体が揺れ、星野源には一瞬心が振れるが、やはり元の鞘、秩父の日常に戻るのは自明の理である。 スクリーンにおびただしいヒヨコが映る。これほどのヒヨコが登場したのは『OL官能日記 ああ私の中で』以来であろう。この映画は、20代の女性が失意の後、カルメン・マキの「私は風」という歌に乗って未来を目指すという話であったが、ヒヨコと失意の女はお似合いかもしれない。 1週間前私の眼と友人のカメラに焼き付けた秩父の風景を、その1週間後スクリーンで見る。奇妙な体験であった。もちろん『ノン子36歳(家事手伝い)』が秩父を舞台にした映画であることを、あらかじめ知っていて見に行った訳ではない。 | ||
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●市井義久の近況● その83 2009年1月 (ちょっと古い日記になっています。) いい天気だ。仕事の都合で下北沢へ芝居を見に行った。映画は年30本以上見るが、演劇は仕事の都合でしか見ない。したがって前に見たのは昨年か一昨年かもう覚えてもいない。下北沢なんて滅多に行かないので、麻布十番からどれくらいかかるかもわからなくて、開演から1時間以上前に着いた。そこで昔通った喫茶店があるかどうか見に行った。壇、ビルは存在したが美容院になっていた。マサコ、なんと存在した。それも外も中も昔のままである。コーヒー500円、今現在コーヒー500円はちょっと高い気がする。昔は当時の物価からしても、もう少し安かったような気がする。お客や働いている人は異なるが、昔のままというのは驚きである。学生時代は大学が吉祥寺で井の頭線沿線に住んでいたので、下北沢はしょっちゅう来た。そのうちの店の中で1軒だけでも残っていたのは嬉しい限りである。吉祥寺は当時通っていた飲み屋、喫茶店はもう1軒も無い。 さて下北沢ザ・スズナリ、ここも昔風である。そして渡されたチラシが、何枚ではなく、何cm、今も活況である。見た芝居も「戦争と市民」、今時こんなストレートな物言いをする人がいるとは驚きである。当日4000円、パイプ椅子、しかも客はぎっしり、老人が目立つのが昔とはちょっと異なるが、私が学生だった頃から40年、依然変わらない物、事を発見した1日であった。 単純な比較は出来ないが、演劇の方が自由な気がした。それは制(製)作費の違いである。今時、こんなに声高に、ストレートに、直接的に、戦争反対なんて政党でも言わないのではないか。演劇は劇作家がこれを言おうと決めるとすぐ型になる、板に上る。映画のように決まり切った役者をとっかえひっかえしているのではなく役者も自由だ。演出家の一存で決まる。おそらく。映画ばかり見ていると演劇のこの腰の軽さが羨ましくなる。しかし今年も映画と付き合う。 2時間40分の芝居がハネ、近くのざこやという飲み屋に行った。夜の11時を過ぎて、老人は私1人、若い人でいっぱいである。それも生牡蠣、レバ刺し、白子の店なのに。昔、若い人がこんなものを、私はともかく食べたかな。ここだけは昔の飲み屋とはちょっと異なる。 | ||
市井義久(映画宣伝プロデューサー) 1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。 キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。 1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。 2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。 ●2001年 宣伝 パブリシティ作品 3月24日『火垂』 (配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿) 6月16日『天国からきた男たち』 (配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他) 7月7日『姉のいた夏、いない夏』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他) 8月4日『風と共に去りぬ』 (配給:ヘラルド映画 興行:シネ・リーブル池袋) 11月3日『赤い橋の下のぬるい水』 (配給:日活 興行:渋谷東急3 他) 12月1日『クライム アンド パニッシュメント』 (配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋) ●2002年 1月26日『プリティ・プリンセス』 (配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他) 5月25日『冷戦』 6月15日『重装警察』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森) 6月22日『es』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷) 7月6日『シックス・エンジェルズ』 8月10日『ゼビウス』 8月17日『ガイスターズ』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋) 11月2日『国姓爺合戦』 (配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他) ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。 |
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