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シネマ ファシスト 第88回 2009年6月号 『ディア・ドクター』 (申し訳ありません。これを8月に書いております。) 鶴瓶はなぜ白衣を捨てたのか。 『麦秋』という映画の監督が、風に吹かれる麦を演出したように、この映画の監督も、風にそよぐ稲の穂を演出している。どちらも皆がばらばらになるという映画である。演出が際立つシーンがある。八千草薫と鶴瓶が、食卓でごはんを食べた後、鶴瓶の食器は空、八千草のそれは、八千草の癌を証明し、鶴瓶を動揺させるかのように食べ物の大半が残っている。又、瑛太と鶴瓶がスイカを食べた後に言い争いをするシーン、映画という虚構にもう一つニセ医者というウソが加わり、そこにもう一つ瑛太の父の医者もどきという話が加わり、全てがウソへ流れ出そうとするシーンである。又、お盆の八千草薫の実家での娘3人の会話。装わない事実としての姉妹はこんなものという監督の主張が窺える。その時々の辛辣なシーンの連続が、人間が生きてゆく上での虚と実と危うさと弱さと優しさを見せている。 集落全体でニセ医者とニセ患者を演じているような平和な村でも、バランスが崩れ、一旦白衣が脱ぎ捨てられてしまうと、その失調は明らかである。鶴瓶にしろ余にしろ香川にしろ八千草にしろ、装うことで共犯として、同乗者として、地域とたまたまのその時代に同調、調和していた。瑛太とて、その調和を乱す異分子ではなく、その調和をより強固にする闖入者であった。それは鶴瓶にとっては予想外であったが。全ては上手くいっていた。あの時までは。なのになぜ鶴瓶は白衣を捨てたのか。 その探索のために、装わない松重と岩松が登場する。しかし何もわからない。唯一観客が目に出来たのは、松重の審問に答える瑛太の口調が、予想以上に鶴瓶に対して辛いのと、八千草の家で食事をしたり、野球を見たり、点滴を打っていた鶴瓶が、再び同じ病室で八千草の顔を見ていることである。 とするとやはり、一旦はニセ医者として八千草とともに秘することにした癌を、治療するため、自ら白衣を捨て、八千草の延命を画策し、瑛太をも放逐したのか。やはり謎である。 | ||
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●市井義久の近況● その88 2009年6月 又、鎌倉へ行く。新橋から横須賀線に乗って、多摩川を越え横浜を過ぎ大船観音を拝み、円覚寺の山門を見て鎌倉へ、落ち着く風景である。地元の人にとっては、問題山積だそうだが、月1回訪れる私にとっては、安らぐ風景である。紫陽花の季節なのにビールを持って海へ、歯がかじかんだ海、砂嵐吹き荒れる海、トンビが私のパンを狙う海、裸体と汗がいっぱいの海、潮の香が微かに漂う海、伊豆の観音温泉へ一足で行けそうな澄んだ海、そして今日の海の家建設中の喧騒の海。東京から一番近い海という訳ではないのに、常に行くのは鎌倉の海、住んでいたのは逗子の海だが、今行くのは駅からも近く、泳ぐ事も可能な鎌倉の海。しかし今はもう夏でも泳ぐことはなく、昼過ぎに着いては、ビールを飲みながら海を眺め、夕暮れとともに帰って行く。月1回海を眺めに来るだけの鎌倉。春は桜、初夏は紫陽花、秋は紅葉、冬は牡丹と言うが、それは言い訳、皆、鎌倉に来たいだけである。ならば私は海。初めて鎌倉の海を見たのは小学生の頃と思うが、それから何十年、当たり前だが海は変わらない。東京ならば埋め立てられたり、海岸線がコンクリートになったりするが、鎌倉の海は今でも砂浜である。その砂浜を海と挟むようにしてコンクリートの道が走っている。 さあ陽が傾いてきた。ビールも無くなった。帰るとするか。 | ||
市井義久(映画宣伝プロデューサー) 1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。 キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。 1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。 2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。 ●2001年 宣伝 パブリシティ作品 3月24日『火垂』 (配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿) 6月16日『天国からきた男たち』 (配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他) 7月7日『姉のいた夏、いない夏』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他) 8月4日『風と共に去りぬ』 (配給:ヘラルド映画 興行:シネ・リーブル池袋) 11月3日『赤い橋の下のぬるい水』 (配給:日活 興行:渋谷東急3 他) 12月1日『クライム アンド パニッシュメント』 (配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋) ●2002年 1月26日『プリティ・プリンセス』 (配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他) 5月25日『冷戦』 6月15日『重装警察』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森) 6月22日『es』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷) 7月6日『シックス・エンジェルズ』 8月10日『ゼビウス』 8月17日『ガイスターズ』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋) 11月2日『国姓爺合戦』 (配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他) ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。 |
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