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シネマ ファシスト 第90回 2009年8月号 『南極料理人』 『ディア・ドクター』のように、1本、映画全体を貫く大テーマがあるのではなく、エピソードの羅列、エピソードの串刺しのような映画だと聞いていた。 この映画は幸福であるということの一つの有様を提示している。食べ物にしか興味がない。すべての食べ物がおいしく見えておいしく食べられる。それは極めて幸福なことである。実際南極越冬から帰国し、遊園地のハンバーグを食べた堺雅人が思わずおいしいと言っているので、南極でのカンヅメ、冷凍モノ、乾物の食事はそれ程おいしくなかったのかもしれないが、それをおいしく食べられるのは幸福である。お刺身、カニ、ラーメン、エビフライ、フランス料理、中華料理、おにぎり、どれもおいしそうである。いやな上司もいないと劇中にもあるが、何せ日本から14,000kmなので、家族のことで気を煩わされることもなく、やるべきことだけを黙々と1年間毎日同じようにこなせばよい。刑務所でもない病院でもない、極めて限定的な場所で極めて限定的な日常を送ることは幸福である。それは引き篭りの幸福でありオタクの幸福であり、多忙なサラリーマンが同じような日常を繰り返す幸福である。 『南極料理人』は幸福の1つの典型を提示している。そのためには時々離れてゆく1人1人の心をもう一度引き戻す。堺の家でのトリの唐揚げと南極でのトリの唐揚げの件、ラーメン、KDDの交換手、そのようにして時々1人1人の心を限定空間に引き戻す。そしてラスト1年間で1人1t8人で8tもの食糧を食べ尽くした南極越冬隊の最後の朝食は、まさに家族そのものである。 最近お客の有様が気にかかる。『ルーキーズ 卒業』が大ヒットしたり、『アマルフィー 女神の報酬』がヒットしたり、そしてこの映画の観客はほとんどおばさんであったが、それが実によく笑う。とすると『南極料理人』料理の映画なので、女性映画というジャンルであろうか。女性はほとんど出てこないのに。 | ||
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●市井義久の近況● その90 2009年8月 湯布院映画祭には今年も行けないことになった。9月12日が初日のためである。1回目と2回目を欠席し、3回目から32回目まで出席し、33回目と34回目を欠席した。よく30年間も行き続けたものである。私が行き続けるために実行委員に伝えたことは1つ。それは主旨を明確にすることである。それはたった1回だけ映画祭を企画運営した私自身の教訓であった。コンセプトさえ明確であれば来る人は来る。今回(34回)は、「日本映画脚本家列伝」プランは上々である。しかし発表されたゲスト脚本家と上映作品を見て合点がゆかなくなってきた。映画は過去を継承し、現代を経由して未来へと向ってゆくものならば、これから10年先20年先を担う脚本家がいない。白坂さんの1950年代から始まって、野上さん、荒井さん、丸山さん、西岡さん、奥寺さんの70年から90年、しかしその後の2000年からが、これからの2010年及びその後を占う上でも向井さん1人では弱い。映画祭なのだから、単なるレトロスペクティブで終わらせず、未来を見据える上でも2000年代を三谷幸喜、渡辺あや他で充実させる工夫があってもよかったと思う。私も老人なので先は知れている。過去の黄金期と今後の未来を担う人々を同じ土俵に乗せて、未来を展望したほうが、老人にとっても未来は開かれたと思う。 母が三面の里という所に入所しているので年4回は田舎へ帰る。8月はお盆に帰省した。ゆ〜むの近く下関にメイクというファミリーレストランがある。帰省するたびにそのレストランの前は通るが、1回も入ったことはなかった。肉の又作の2Fにあり肉の又作が経営するレストランである。肉の又作は私が子供の頃からの店であり、メイクも又随分と古い。しかしおよそおいしそうには見えない店構えである。今回初めて中に入った。とんかつ定食1,000円。東京だと2,000円は下らない味である。普通はキャベツだが、ここはサラダ、おまけに他のとんかつ屋にはあり得ないイクラの山かけまでついている。このイクラが肉屋なのになぜかおいしい。とんかつもしっかりしたとした豚肉の味、固からず柔らかからず衣も薄く、私の好みからするともう少し脂身が付いていた方がおいしいが、ヒレでもないのに脂身が少ない。そのワンランク上の1,480円のロースかつ定食、ヒレかつ定食は食べてはみなかったが、下関で出すにはもったいないくらいの味ではないかと思う。幸福な一瞬であった。 下関の食堂は、できてはつぶれできてはつぶれ、今はもうこの一軒しかない。その理由が見える。とんかつの肉の張りとやわらかさと食感である。 翌日は三面の里のある村上のイヨボヤ会館へ行った。村上は鮭が名物でこれは鮭の博物館。併設されたサーモンハウス新羅ではらこごはんセット1,575円を食べた。こういうところこそ、はらこなりサケなりがおいしくなければ意味がない。それもこのはらこは、とんかつ定食の箸休めではない。なのに見た目にも分かるほど、食べてみても残念な味であった。これでは村上でシャケなりイクラなりを買おうという気が起きない。もちろん肉の又作が経営している食堂でイクラだけがおいしかったら、これもおかしな話ではあるが。やはりイヨボヤ会館の隣の食堂の鮭、イクラがおいしくないのはおかしな話である。 | ||
市井義久(映画宣伝プロデューサー) 1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。 キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。 1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。 2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。 ●2001年 宣伝 パブリシティ作品 3月24日『火垂』 (配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿) 6月16日『天国からきた男たち』 (配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他) 7月7日『姉のいた夏、いない夏』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他) 8月4日『風と共に去りぬ』 (配給:ヘラルド映画 興行:シネ・リーブル池袋) 11月3日『赤い橋の下のぬるい水』 (配給:日活 興行:渋谷東急3 他) 12月1日『クライム アンド パニッシュメント』 (配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋) ●2002年 1月26日『プリティ・プリンセス』 (配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他) 5月25日『冷戦』 6月15日『重装警察』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森) 6月22日『es』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷) 7月6日『シックス・エンジェルズ』 8月10日『ゼビウス』 8月17日『ガイスターズ』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋) 11月2日『国姓爺合戦』 (配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他) ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。 |
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